2013.03.30 冗談好きの監督が贈る、ヒューマンコメディの中に社会問題が織り込まれた『ベルリンの虎』
シアター1で『ベルリンの虎』の上映会と舞台挨拶が行われました。『ベルリンの虎』はベルリンに暮らすトルコ人ボクサー、アイハン・カプランを主人公にもう30年も会っていない、いとこ家族が彼の前に現れたことで、なかなか上手くいかなかった人生が変わり始める、というヒューマンコメディ。
上映後行われた舞台挨拶にはハーカン・アルギュル監督が登場しました。

日本語で「コンニチハ、オキナワ」と挨拶を始めたハーカン監督は、「コメディ映画についてのフェスティバルはあまりないので、参加させていただいて嬉しいし、皆さんにも楽しんでもらえたらいいと思う」と、沖縄国際映画祭への参加を喜んでいました。
また、沖縄については「初めて来たけれど気に入りました。タコヤキとゴーヤーがおいしかった」と話し、「日本とトルコは“お客様をもてなす”という心が似ているので、過ごしやすくて気に入った。人があたたかくて満たされている感じがする」と、日本の雰囲気を絶賛していました。

映画について聞かれたハーカン監督は「トルコの社会問題。第2次世界大戦の後、ドイツに出稼ぎに行った人が多かったんだけど、ドイツで生まれた子どもは、ドイツではトルコ人として扱われるのにドイツ語しかしゃべれないからトルコに帰ってきても居場所がない。そんな狭間で暮らす人の姿を描きたかった」と、一見ヒューマンコメディに見えるのにその根底にはトルコの問題を描いていたという事を暴露。
また、劇中に出てくる海や川などの自然の美しさや、土地を売って儲けようとする人の姿についても「トルコは自然がきれい。以前作った映画とはまた違う場所で撮っているが、どちらも美しい場所だと思う。その反面、観光地化も進んでいるので、ホテルが建ったり自然破壊も進んできているので、それを止めたいという気持ちもあった」と、またしてもトルコの社会問題について語りました。何気なく出てきていたワンシーンが、すべて意味あるものだったという監督の仕掛けの上手さが伝わりました。

また、主人公のボクサー、アイハン・カプランを演じたアタ・デミレルさんについてハーカン監督は、「彼とは映画の仕事をする前から付き合いがある。前回はミュージシャン役で、今回は彼の体型にぴったりなボクサー役だったから、次は日本に連れてきてもっと太らせて、スモウレスラーの話を撮ろうかな」と冗談交じりに話していました。

ハーカン監督はこの他にも「ラストシーンのロケ地、アンタレアは本当にきれいな場所。5つ星ホテルに泊まるのもいいけれど、映画に出てきたような小さな家族経営のホテルに泊まるのをおすすめする。僕の名前を出したら割引があるかもよ?」や、後ろがワイヤーでつながっていて、顔の中央でつなぎ合わせるタイプのメガネを司会に「珍しい」と指摘されると、「そうですね、日本には無いみたいなので今から売りに出掛けようと思います」と、冗談を連発させ、会場は終始和やかな雰囲気でした。

最後に「日本の観客に映画をどのように受け止めてほしいか」と聞かれたハーカン監督は、「必ずこう受け取ってほしいというメッセージはないので、見た人がそれぞれ感じ取ったことを大切にして楽しんでほしい」と、社会問題がちりばめられてはいるけれどあくまでもコメディである、という姿勢をつらぬいていました。
ハーカン監督は日本語で「アリガトウ、オキナワ」と挨拶をしめくくり、笑顔あふれる舞台挨拶は幕を閉じました。